はじめに
SaaSの普及でデータが揃い、一見すると事業運営は以前よりもはるかに可視化されているように見えます。しかし現実には、数字を正しく読み解き、全体を理解できる人が限られており、その人がいないと意思決定が止まる状態に陥っている企業が少なくありません。この中心にいるのがBizOps(ビズオプス)と呼ばれる役割です。本稿では、BizOpsがなぜ高確率で属人化するのかを、スキルや能力の問題ではなく、事業ITと経営判断の構造的帰結として整理します。
BizOpsは「全体をつなぐ役割」として生まれた
BizOpsは、部門ごとに分断されたSaaS、つながらないデータ、ばらばらなKPIを横断的につなぎ、事業を前に進めるために生まれた役割です。営業、マーケティング、オペレーション、ファイナンスといった部門をまたいで数字を見て判断できる存在として、BizOpsは期待されました。
BizOpsは「設計されなかった空白」を埋めている
本来、データの定義、判断の基準、部門間の接続は、ITシステムやプロセスとして設計されるべきものでした。しかし、それが存在しない場合、どの数字を見るべきか、どこまでを正とするか、矛盾が起きたときどう解釈するかを、人がその都度判断する必要が生まれます。BizOpsは、この「設計されなかった空白」を人力で埋める役割を担っているのです。
属人化は、優秀さの副作用である
BizOpsが属人化するのは能力が低いからではありません。むしろ逆です。文脈理解が早く、数字の矛盾に気づけ、部門間の言語を翻訳できる、こうした優秀な人材ほど判断が集まり、調整が集中し、「その人に聞けば分かる」状態を生み出します。属人化は、能力の高さが引き起こす必然的帰結なのです。
BizOpsは「意思決定装置」になってしまう
ITが本来担うべきだった役割は、判断基準を固定し、データの意味を揃え、判断を再現可能にすることでした。しかし、それが設計されていないため、BizOpsは次第に、数字を解釈し、文脈を補足し、経営判断を支える「生きた意思決定装置」になります。この状態では、BizOpsが抜けた瞬間に、事業の判断速度は一気に落ちてしまいます。
なぜ仕組み化されないのか
BizOpsの仕事が仕組み化されない理由は、判断が暗黙的で例外が多く、正解が一つではないからだと言われます。しかし、これは理由ではなく、そもそも仕組み化される前提でITシステムやプロセスが設計されていなかったという結果に過ぎません。BizOpsは、設計されなかった判断や統合されなかったデータを、背負わされているのです。
BizOpsを増やしても解決しない
属人化が問題になると、BizOpsを増員したり専任チームを作ったりする対応が取られがちです。しかし、根本的な判断構造が変わらない限り、属人化は単に分散されるだけで、判断の整合性は下がり、混乱はむしろ増える結果になります。問題は人数ではなく、判断の置き場所(IT戦略上の設計)にあるのです。
経営判断として何が欠けていたのか
BizOpsが属人化する最大の理由は、どの判断を構造(システム)に落とすのか、どの判断を人に残すのか、その境界を誰が決めるのかを、経営が定義しなかったことにあります。その結果、人が判断を背負い、人が調整を吸収し、人がシステムの代わりになるという構造が固定化されてしまいました。これはIT投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)の根幹に関わる経営課題です。
次に問うべきこと
ここで問うべきは、「BizOpsは優秀か」「属人化は悪か」ではありません。問うべきは、「なぜ人が意思決定装置になっているのか」「本来、どの判断をITに任せるべきだったのか」です。次稿では、「今は仕方ない」が常態化する瞬間を取り上げ、BizOpsによる人力最適化が、どのように技術的負債と意思決定の停滞を生むのかを見ていきます。

