はじめに
多くの企業では「経営戦略」と「IT戦略」が並列で存在する前提で語られがちです。一見すると、経営戦略は事業の方向性を決めるもの、IT戦略はそれを支えるための戦略という関係に見えます。しかし、この二つが並列に置かれた瞬間から、経営とITの分断は構造的に確定してしまうのです。本稿では、経営戦略とIT戦略が並列になる状態と、それがなぜ問題なのかを、経営意思決定の構造として整理します。
戦略とは、本来ひとつしか存在しない
戦略とは、限られた資源をどこに配分し、何を取り、何を捨てるかを決める行為です。この定義に立てば、経営戦略とIT戦略が同時に独立して存在することはあり得ません。どの事業に賭けるのか、どの能力を内製するのか、どのスピードを選ぶのか、これらの判断にITが深く関わる以上、ITは戦略の一部であり、別枠の戦略として切り出されるものではないはずです。
並列化は「切り離し」のサインである
それでも企業が「IT戦略」という言葉を使い始めるとき、そこにはある前提が存在します。それは、経営戦略の中でITを語れなかったという事実です。事業戦略の議論にITが組み込めず、ITを前提に事業を設計していない、あるいは技術の話になると議論が止まる。その結果、ITは経営戦略から切り離され、後付けで「IT戦略」として整理されるのです。
IT戦略が生まれる典型的なプロセス
IT戦略が並列化されるプロセスは、多くの企業で驚くほど共通しています。
- 経営戦略が策定される。
- 実行段階でIT課題が噴出する。
- 既存の意思決定では処理できなくなる。
- IT部門に対応が委ねられる。
- 後追いで「IT戦略」が作られる。
この時点で、ITはすでに戦略を実現するための前提条件ではなく、後始末の対象になっています。
並列化が生む二重の最適化
経営戦略とIT戦略が並列になると、組織内では二つの最適化が走ります。経営戦略は市場・売上・成長を最優先し、IT戦略は安定性・効率・リスク回避を最優先します。どちらも正しいように見えますが、同じ企業の戦略としては両立しません。結果として、「事業は速く、ITは追いつかない」「ITは守り、事業は暴走する」という状態が固定化され、全体最適を担う主体がいなくなってしまうのです。
戦略会議にITがいない理由
経営戦略とIT戦略が分離されると、戦略会議の構造も変質します。経営戦略会議はIT抜きで進み、IT戦略会議は事後対応が中心になります。この構造では、ITは常に「決まった戦略をどう支えるか」という立場に追い込まれます。しかし、ITが事業構造を規定する現代において、この前提自体が破綻しています。
並列化は責任分散を生む
戦略が二つに分かれると、責任も分散します。「事業がうまくいかないのはITのせい」「ITが追いつかないのは事業のせい」という構造では、失敗は常にどちらの戦略にも回収されません。結果として、戦略は更新されず、失敗だけが蓄積されていきます。
なぜ並列化は繰り返されるのか
経営戦略とIT戦略の並列化は、一度起きると繰り返されます。なぜなら、「経営がITを戦略言語で語れない」「ITが経営判断に踏み込めない」「両者を統合する主体が存在しない」という根本的な前提が変わらないからです。
次に必要な視点
経営戦略とIT戦略を無理に「連携」させる必要はありません。必要なのは、最初から分けないことです。具体的には、事業戦略を考えるときにITを含め、ITをコストや手段ではなく前提条件として扱い、戦略を一つの意思決定として引き取ることです。次稿では、海外企業では何が違ったのかを取り上げ、この並列化が起きなかった構造を比較します。

