「技術と経営をつなぐIT戦略・DX支援パートナー」を標榜するサービスが、市場に増えています。先日も、リ・ジューム合同会社が「技術と経営をつなぐ」支援を掲げる記事が報じられました。一見、まさに我々が求めるべき理想的な支援像に思えます。しかし、ここにこそ、日本の企業がITと向き合う際の根本的な「思考停止」と「責任放棄」の構造が表れていると、私は危惧しています。
「つなぐ」という言葉は、前提として「技術と経営が分断されている」ことを認めています。そして、その分断を埋めるのは「外部のパートナー」であるという構図です。これは、経営者が自らの責任でITを定義し、統合するという最も重要な課題を、アウトソーシングしようとする思考ではないでしょうか。
「つなぐ」支援が生まれる土壌:経営のIT放棄
なぜ、「技術と経営をつなぐ」というニーズがこれほどまでに顕在化するのでしょうか。その背景には、編集方針でも繰り返し指摘している「経営のIT放棄」という構造的問題があります。
多くの経営者は、ITを「専門的で難解な技術領域」と捉え、その目的定義や設計を技術者や外部ベンダーに委ねてきました。これは「委任」ではなく「放棄」です。委任であれば、目的と評価基準は経営が明確に設定します。しかし放棄では、目的関数が曖昧なまま外部に投げられ、結果として「部門ごとのIT」「属人化したIT」「統合不能なIT」が蔓延します。
この「放棄」によって生じた巨大な溝を、今度は「つなぐ」という名目のサービスで埋めようとする。これは、問題の根本原因である「経営のIT定義不在」にメスを入れることなく、対症療法を繰り返しているに過ぎません。支援パートナーは確かに有用な知見を提供できますが、彼らが定義できるのは「手段」であって、企業固有の「目的」ではありません。その「目的」を考えないまま支援を導入することは、新たな依存関係を生むだけです。
三つのIT分類から見る「つなぎ」の限界
当メディアでは、企業内のITを「事業IT」「経営IT」「管理IT」の三つに分類して考えます。この視点で「つなぐ支援」を分析すると、その限界が明確になります。
事業ITと経営ITの断絶は「つなげない」
「事業IT」(売上・成長に直結するIT)は速度が命です。現場のニーズに即応し、SaaSを即導入する文化が支配的です。一方、「経営IT」(意思決定と再現性のためのIT)は統合と一貫性が命です。全社データを統合し、経営判断の質を高めることを目指します。
この二つは、根本的に目的関数が異なります。速度最優先の事業ITと、統合最優先の経営ITを、外部パートナーが「つなぐ」ことは原理的に困難です。なぜなら、どちらの目的を優先するのかという「経営判断」が必要だからです。この判断を経営者がせず、パートナーに「つないでください」と依頼することは、経営責任の放棄でしかありません。
管理ITの「安定性」信仰がすべてを阻む
さらに「管理IT」(安定運用・コスト管理のIT)の存在も見逃せません。多くの企業で、情シス部門は「安定性」と「コスト削減」のみを評価されます。その結果、新しい「つなぎ」の試みも、「リスクが高い」「コストが不明確」として阻まれることが少なくありません。外部パートナーが「技術と経営をつなぎ」ようとしても、この内部の「管理IT」の壁に阻まれるのです。
では、何をすべきか:「つなぐ」から「統合設計する」へ
では、経営者・CTO・情シスは具体的に何を考え、行動すべきなのでしょうか。キーワードは「つなぐ」から「統合設計する」への転換です。
第一歩:自社のIT目的関数を定義する
まず、経営陣で議論すべきは、「我が社において、ITの目的は何か」という根源的な問いです。例えば、「今後3年で、ITを通じて実現したい経営上の成果は何か」を言語化します。これは、売上拡大、意思決定速度の向上、業務プロセスの再現性確保など、複数あり得ます。重要なのは、これらに優先順位をつけることです。速度と統合はトレードオフの関係にあることが多いからです。
この目的関数が定義されれば、初めて「どのITにいくら投資するか」「事業ITと経営ITのバランスをどうするか」という判断が可能になります。外部パートナーに求めるべきは、この定義された目的関数を実現する「手段の提案と実行支援」です。
実践例:SaaS統合ダッシュボードのケース
ある小売業のクライアントでは、各店舗でバラバラに導入されていたSaaS(売上管理、在庫管理、シフト管理)が、経営判断に活かせていませんでした。彼らが取ったのは以下のステップです。
- 経営目的の定義:「リアルタイムに全店舗の収益性を把握し、翌月の販促策に反映する」ことを最優先目的と設定。
- 技術的制約の明確化:既存SaaSのAPI連携可否、データ形式を情シスと共に洗い出し。
- ツール選定:目的達成のため、データ統合プラットフォーム(当時はMicrosoft Power BIと各SaaSのコネクタを活用)を導入。高価なカスタム開発は見送り。
このプロセスで、外部コンサルタントには「Power BIを用いた具体的なデータパイプライン構築」を依頼しました。しかし、「何のためにつなぐのか」という目的定義は、経営陣自らが行ったのです。結果、投資対効果が明確で、継続的に活用される仕組みができました。
支援パートナーとの「正しい」付き合い方
「技術と経営をつなぐ」パートナーは、決して不要ではありません。むしろ、適切な使い方さえできれば、強力な推進力となります。ポイントは以下の3点です。
1. 目的定義は絶対に外注しない
パートナーに最初に求めるべきは、「我が社のビジネスを理解した上で、IT目的を一緒に考えてくれる」ことではなく、「我が社が定義した目的を、技術的にどのように実現し、どのように計測するか」の具体案です。目的設定ワークショップを売りにするサービスも多いですが、そのファシリテーションは借りつつも、答えは経営陣の腹から出す覚悟が必要です。
2. 「つなぎ」のコア技術を見極める
多くの支援サービスは、特定の技術スタック(例えば特定のクラウドプラットフォーム、統合ツール)を基盤としています。自社の既存環境(特にデータの発生源であるSaaS群)と、そのパートナーの得意技術が適合するかを見極めましょう。パートナー都合で新たなツールが乱立しては本末転倒です。
3. 出口戦略(内製化の道筋)を最初に合意する
依存関係を生まないためには、支援のゴールを「知識と資産の移転」に置くことです。例えば、最初のデータパイプライン構築はパートナーが担当するが、2つ目のダッシュボードからは自社情シスが主体で行い、パートナーはレビューのみ関与する、といったロードマップを最初に描きます。これにより、支援は「永続的なつなぎ役」ではなく、「自立のための一時的な触媒」となります。
まとめ:経営者の役割は「つなぐ」ことではなく「統合を命じる」こと
「技術と経営をつなぐ」という言葉の響きは確かに心地よいものです。しかし、それが経営者自身の手を離れたところで行われるのであれば、それは新たな技術的属人化、あるいは外部依存を生むだけです。
真に必要なのは、経営者が「技術と経営はそもそも分断されてはならない一体のものだ」と宣言し、その統合設計の責任を自らが担うことです。その上で、足りない技術的実行力やノウハウを、明確な目的定義と出口戦略を持ってパートナーに求める。この順序を間違えてはなりません。
DXとは、結局のところ、デジタル技術を用いた「経営の再設計」です。その設計図の筆を執るのは、外部の誰でもない、経営者自身なのです。

