「変わる情シス」という言葉が示すもの
「変わる情シス2026春」というイベントに、複数の企業が協賛を表明しました。このイベント名が示唆するのは、情報システム部門(情シス)の役割が、これまでの「システムを止めない管理者」から、事業成長を牽引する「戦略的パートナー」へと変わる必要があるというメッセージです。
しかし、ここで問いたいのは「なぜ今、情シスが変わらなければならないのか」という根本的な理由です。単に「DX推進のために」という漠然とした目標ではありません。経営環境の変化、テクノロジーの民主化、そして何より、経営陣がITを「コストセンター」から「プロフィットセンター」へと認識を変えざるを得なくなったからです。
本記事では、この「変わる情シス」というトレンドを、単なるスキルアップや組織再編の話として捉えるのではなく、経営とITの関係性そのものを再定義する機会として分析します。
なぜ今、情シスが「変わらなければならない」のか
これまで情シスは、システムの安定稼働を最優先に評価されてきました。障害を起こさないこと、セキュリティインシデントを防ぐこと、コストを削減すること。これらは確かに重要なミッションです。しかし、SaaSの普及により、現場の部門が自らクラウドサービスを契約できるようになりました。いわゆる「シャドーIT」の台頭です。
この現象は、情シスの存在意義そのものを揺るがしています。経営陣から見れば、「現場が自分たちでツールを選んで使えているのに、なぜ情シスが必要なのか」という疑問が湧くのは当然です。実際、多くの中小企業では、情シス部門が形骸化し、総務や経理の兼任担当者がなんとなく管理しているケースが後を絶ちません。
こうした状況下で、「変わる情シス」が求められる理由は明白です。変化しなければ、情シスという組織そのものが不要になるリスクがあるからです。しかし、単に「新しい技術を覚えろ」「プログラミングを学べ」という話ではありません。変わるべきは、情シスが担う「役割」と「責任」の範囲です。
「守る」から「攻める」へのシフトが本質ではない
よく言われる「守りのITから攻めのITへ」というフレーズは、少し注意が必要です。この言葉だけが独り歩きすると、情シスが無理に新規事業の企画をしたり、営業支援ツールの導入リーダーを務めたりすることを求められかねません。しかし、それは本来、事業部門の役割です。
情シスが本当に「変わる」べきは、経営陣と事業部門に対して、IT投資の「目的」を明確にするためのファシリテーション能力を身につけることです。つまり、ITの専門家として「このツールを入れると、どの業務がどう変わるのか」「その変化は、経営目標の達成にどう寄与するのか」を、経営言語に翻訳して説明できる力です。
例えば、Salesforceを導入する場合、情シスは単にシステムを構築するだけでなく、「営業の可視化が進むことで、経営会議の意思決定速度が月単位から週単位に短縮される」という価値を経営陣に提示する必要があります。
「変わる情シス」に必要な3つの視点
それでは、具体的に情シスは何を変えるべきなのでしょうか。私は、以下の3つの視点が重要だと考えています。
経営視点の獲得
第一に、経営視点です。情シス担当者は、自部門の予算やリソースだけでなく、会社全体の事業戦略を理解する必要があります。中期経営計画、重点投資領域、競合環境。これらを理解した上で、IT投資の優先順位を提案できるようになることが求められます。
具体的には、経営会議の資料を定期的に閲覧する権限を得ること、あるいは経営企画部門との定例ミーティングを設定することが有効です。技術的な議論に入る前に、「この投資は、売上増加とコスト削減のどちらに効くのか」を常に問う習慣をつけましょう。
「統合」の設計能力
第二に、統合の設計能力です。SaaSが増えれば増えるほど、データはサイロ化します。営業はHubSpot、マーケティングはGoogle Analytics、カスタマーサポートはZendesk——それぞれのツールは優秀ですが、データが連携していなければ、経営は全体像を把握できません。
情シスに求められるのは、これらのツールをAPIで連携し、一元的なダッシュボードを構築する能力です。ノーコードツール(Zapier、Make)や、BIツール(Tableau、Power BI)の活用スキルは、もはや選択肢ではなく必須になりつつあります。
例えば、受注データとカスタマーサポートのチケットデータを連携すれば、「どの製品に問い合わせが多く、その製品のリピート率が低い」という傾向を可視化できます。これは、製品開発やマーケティング戦略に直結する重要なインサイトです。
「任せる」文化の醸成
第三に、そして最も難しいのが、任せる文化の醸成です。情シスが全てのITを管理しようとすると、ボトルネックが発生し、現場のスピード感を損なうことになります。重要なのは、現場が自らツールを選定・運用するための「ガイドライン」と「サポート体制」を整備することです。
例えば、「このカテゴリのツールは、情シスの承認なしに契約して良いが、セキュリティチェックシートの提出は必須」といったルールを設けます。情シスは、全てのツールを管理するのではなく、現場の自律的なIT活用を促進する「プラットフォーマー」としての役割にシフトするのです。
具体的なアクションプラン
ここまでの議論を踏まえ、明日からでも始められる具体的なアクションを3つ提案します。
1つ目は、情シス部門内で「事業理解」の勉強会を始めることです。自社の主力製品・サービスの強み、競合との差別化ポイント、顧客セグメントを、営業やマーケティングのメンバーを招いてレクチャーしてもらいましょう。
2つ目は、現在利用中のSaaSの棚卸しです。どのツールが誰によって使われ、どの程度の効果を上げているのかを可視化します。使われていないツールは解約し、重複する機能を持つツールは統合を検討します。
3つ目は、経営陣との定例ミーティングを月1回設定することです。そこで、IT投資の進捗報告だけでなく、「このデータ分析からこんな示唆が得られた」「このツールを導入すると、この業務がこれだけ効率化できる」といった、未来志向の提案を行う習慣をつけましょう。
まとめ:変化の本質は「関係性の再定義」
「変わる情シス2026春」というイベントに協賛する企業が増えている背景には、情シスという組織が、もはや従来の延長線上では存続できないという危機感があるのでしょう。しかし、変化の本質は、単なるスキルアップや業務範囲の拡大ではありません。
それは、経営陣、事業部門、そして情シス自身が、ITに対する「目的」と「責任」を再定義し、新たな関係性を構築することです。情シスは「システム管理者」から「ビジネス変革のパートナー」へ。経営陣は「ITは任せるもの」から「ITは自ら定義すべき経営資源」へ。この認識の転換こそが、真のDXの出発点なのです。
あなたの会社の情シスは、今日から何を変えますか?

