はじめに
IT分断の原因は、現場のツール乱立や情シスの保守姿勢、ベンダー依存などと語られがちです。しかし、これらは結果として現れた現象に過ぎません。本稿では、IT分断を「誰の失敗か」という責任論ではなく、「経営判断の構造」という視点から整理し、その本質的な原因を明らかにします。
分断は「意図せず起きた事故」ではない
まず確認すべきは、IT分断は偶然の事故ではないという点です。事業ごとに最適なITを選び、部門ごとに合理的な判断を下す。その時点では正しかった選択が積み重なり、結果として分断が生まれました。つまり、誰かが間違ったからではなく、全体を統合し引き取る主体が不在だったから起きたのです。
現場は「最適解」を選び続けた
現場は、目の前の業務を回し、売上を落とさず、顧客対応を止めないという制約の中で判断します。その結果、導入が早く今すぐ使える、個別最適な解決策を選ぶのは極めて合理的な行動でした。現場は分断を意図して生み出したわけではありません。
情シスは「守るべきもの」を守った
情シス(情報システム部門)は、障害を起こさず、情報を守り、コストを抑えるという期待のもとで評価されてきました。この評価軸の中では、全社最適の設計や事業スピードへの介入に踏み込むインセンティブは生まれません。情シスもまた、与えられた役割を忠実に果たした結果、分断構造の一部となったのです。
ベンダーは「求められた仕事」をした
ベンダーは、要求された仕様を満たし、契約範囲で責任を果たし、プロジェクトを完遂することを役割としています。全社視点での統合や長期的な経営構造までを引き取る立場にはありません。ベンダー依存が問題となるのは、本来経営が担うべき判断まで委ねてしまったときです。
では、誰が失敗したのか
ここまでの整理から明らかなように、現場は合理的に、情シスは役割通りに、ベンダーは契約通りに動いていました。それでもIT分断が起きたとすれば、原因は一つです。分断されたITを統合する主体が、組織内に存在しなかったのです。
統合されなかった理由は「経営判断」にある
ITを全体として統合するためには、「どのITを残し、どこを標準化し、何を捨てるのか」という不可逆的な判断が必要です。これは現場・情シス・ベンダーが単独で引き取れる判断ではなく、本来、経営だけが引き取れる判断なのです。
IT分断の失敗は「経営の不作為」
重要なのは、これを単なる「経営者個人の能力不足」と結論づけないことです。IT分断は、ITを定義せず、判断を先送りし、統合領域を主語にしなかったという「経営構造としての不作為」の結果です。誰か一人の失敗ではなく、経営という意思決定システムが引き取らなかった領域が、分断として可視化されたのです。
責任を問うとは、構造を引き取ること
ここで言う「経営の失敗」とは、誰かを責めることではありません。「どの判断が行われなかったのか」「なぜ行われなかったのか」「これから誰が引き取るのか」を明確にすることです。それができて初めて、IT分断は過去の失敗ではなく、再設計可能な経営課題(DXの本質的な課題)へと変わるのです。
第I章の結論
IT分断は、現場の暴走でも、情シスの怠慢でも、ベンダー依存の問題でもありません。経営がITを定義せず、決断せず、責任を引き取らなかった結果です。次章では、経営が定義しなかった「ITの目的関数」について考察し、これから何を引き取るべきかを具体化していきます。

