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建設DXが突きつける「慣行」という壁

IT戦略

建設業のDX、最新動向に潜む共通課題

2025年4月、建設業界で興味深い2つのニュースが報じられました。一つは長谷工コーポレーションの池上副会長が「デジタル化推進で直面した従来慣行の壁」を語ったインタビュー。もう一つは大成建設が配筋検査の完全デジタル化を実現するシステム「蔵衛門」を全社導入したという発表です。

一見すると異なる二つのニュース。しかし、これらは共通して「慣行」という経営課題を浮き彫りにしています。今回は、建設業のDX事例から、IT導入の成否を分ける「慣行」という壁について、経営視点で分析します。

「慣行の壁」とは何か

長谷工コーポレーションの池上副会長は、デジタル化推進の過程で「現場の慣行」が最大の障壁だったと述べています。具体的には、図面の確認方法、検査の進め方、関係者間のコミュニケーション手段など、長年培われてきた「当たり前」が、デジタルツールの導入を阻んだといいます。

この「慣行の壁」は、建設業に限った話ではありません。多くの企業で、新しいITツールを導入しても「以前のやり方のほうが早い」「紙のほうが確認しやすい」といった声が上がり、結局導入前と変わらない業務フローが続くケースは珍しくありません。

経営者は「ツールを入れれば変わる」と考えがちですが、実際には「慣行」という名の業務プロセスそのものが変わらなければ、IT投資は無駄になります。

大成建設の事例に見る「慣行打破」の設計思想

一方、大成建設が全社導入した「蔵衛門」は、配筋検査という特定業務を完全デジタル化するシステムです。配筋検査とは、鉄筋が設計図通りに配置されているかを確認する工程で、従来は現場で図面と照らし合わせながら手作業でチェックし、紙の記録を残していました。

このシステムの特筆すべき点は、単なるペーパーレス化ではなく、BIM(Building Information Modeling:建物の3次元モデルに各種情報を統合する手法)と連携し、検査データを設計データと自動比較できる点です。これにより、従来は熟練技術者の経験と勘に依存していた検査の精度が、システムとして担保されるようになりました。

つまり、大成建設が行ったのは「ツールの導入」ではなく、「業務プロセスそのものの再設計」です。従来の慣行をそのままデジタルに置き換えるのではなく、BIMという新しい設計思想に合わせて検査の方法自体を変えたのです。

「慣行」をITで変えるための3つの条件

建設業の事例から、経営者がIT導入で「慣行の壁」を突破するための条件を整理します。

条件1:目的を「効率化」ではなく「品質の標準化」に置く

多くのIT導入が「効率化」を目的に掲げます。しかし、効率化だけでは慣行は変わりません。「今までのやり方でもできている」という感覚が強いからです。

大成建設のケースでは、配筋検査の「品質の標準化」が目的でした。熟練技術者の属人的な判断に依存する現状を、システムで再現可能にすることで、検査の品質を一定以上に保つ。この「品質の標準化」という目的が、慣行を変える原動力になりました。

条件2:「慣行のコスト」を可視化する

長谷工コーポレーションの事例で興味深いのは、池上副会長自身が「慣行の壁」を認識し、それを乗り越えるための施策を打っている点です。具体的には、現場のベテラン職人と若手技術者が一緒にデジタルツールを触る機会を設け、従来のやり方の非効率性を「見える化」したといいます。

経営者は、IT導入の前に「現在の慣行にかかっているコスト」を可視化する必要があります。例えば、紙の図面を探す時間、手書きの記録を転記する手間、属人的な判断による手戻りの発生率などです。これらのコストが明確になれば、「慣行を変える」ことのメリットが現場にも伝わります。

条件3:段階的な導入ではなく「全社導入」で一気に変える

大成建設は「蔵衛門」を「全社導入」としています。部分的な導入ではなく、全社規模で一気にシステムを切り替えることで、従来の慣行に戻る余地をなくしたのです。

多くの企業がIT導入で失敗する原因の一つに、「パイロット導入」の段階で「やっぱり従来のやり方でいい」と判断されてしまうケースがあります。全社導入はリスクが伴いますが、慣行を根本から変えるには、ある程度の強制力が必要です。

「慣行の壁」を乗り越えるために経営がすべきこと

建設業のDX事例は、経営者に重要な示唆を与えます。IT導入の成否は、ツールの機能や価格ではなく、経営が「慣行」をどう捉え、どう変えるかを決断できるかどうかにかかっています。

まず、経営者は自社の業務プロセスを「慣行」と「本質」に分解する必要があります。「なぜこの作業をしているのか」を問い直し、単なる習慣で続いている業務があれば、それを変える対象とすべきです。

次に、IT導入の目的を「効率化」から「再現性の確保」にシフトします。熟練者の属人的なスキルに依存する業務こそ、ITでシステム化する価値が高い領域です。

最後に、経営トップ自らが「慣行を変える」コミットメントを示すことです。長谷工コーポレーションの池上副会長のように、トップ自らが課題を認識し、現場と対話しながら変革を進める姿勢が、IT導入の成功確率を高めます。

まとめ:ITは「慣行」を可視化する装置

建設業のDX事例は、ITが単なる業務効率化ツールではなく、「慣行」という名の非効率を可視化する装置であることを示しています。

経営者が「慣行の壁」を認識せずにIT導入を進めれば、ツールだけが導入され、業務は変わらないという最悪の結果を招きます。逆に、慣行を直視し、そのコストを可視化し、変革の目的を明確にすれば、ITは強力な経営ツールになります。

あなたの会社でも、今まさに「慣行」がIT導入の足かせになっていないでしょうか。まずは、その「慣行」の正体を明らかにすることから始めてみてください。

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