成功事例が再現できない理由
多くの企業で、成功した施策が次に同じことをやっても再現しない、別の事業や部門に横展開すると失敗するという状況が繰り返されています。
問題の本質
再現できないのではなく、保存されていない
失敗の原因は「市場環境が違った」「人が違った」「タイミングが良かっただけ」と説明されがちです。しかし本質的な問題は、成功が再現できないのではなく、再現できる形で保存されていないことにあります。
本稿では、なぜ成功事例が組織の中で再現不能になるのかを、個人能力や運の問題ではなく、意思決定とIT設計の構造として整理します。

よくある誤解
  • 市場環境の違い
  • 人材の違い
  • タイミングの問題
記録の問題
成功は「結果」としてしか記録されない
記録される情報
  • 売上が伸びた
  • KPIを達成した
  • 数字が改善した
記録されない情報
  • なぜその判断をしたのか
  • どの選択肢を捨てたのか
  • どの前提を置いていたのか
多くの成功事例は「結果」として共有されますが、判断のプロセスはほとんど記録されません。結果だけが残り、判断が残らない。この時点で、再現性は失われています。
「人が良かった」で回収される成功
成功が再現できない組織では、成功要因が「あの人が優秀だった」「現場が頑張った」「判断が早かった」と語られます。
これらは事実かもしれませんが、次に何をすればいいかは何も示していません。成功が人に紐づけられた瞬間、それは組織の資産ではなく、個人の経験になります。
構造化の失敗
成功時の「例外」が構造に落ちない
成功事例の多くは、特別な顧客対応、臨時の判断、その場限りの例外処理を含んでいます。本来、これらは次の判断のために整理すべき材料です。
例外処理の発生
特別な対応が成功を生む
忙しさによる放置
次の案件に追われる
構造化の失敗
例外は例外のまま
ITが成功を保存する役割を果たしていない
本来のITの役割
  • 判断基準の固定化
  • 手順の構造化
  • データ定義の標準化
現実のIT活用
  • ツール扱いされている
  • 意思決定装置として設計されていない
  • 判断が人に残されたまま
本来、ITは判断基準、手順、データ定義を構造として固定し、成功を再利用可能にする装置でした。しかし、ITがツール扱いされ、意思決定装置として設計されない状態では、成功はシステムに残りません。
学習の欠如
成功が「学習」に変換されない理由
成功の振り返りが曖昧
成功は「正しかった」で終わり、詳細な分析が行われません。
失敗ほど深く分析されない
失敗は詳しく検証されるが、成功は表面的にしか扱われません。
判断の是非が検証されない
何が条件だったのか、どこが偶然だったのかが整理されません。
成功事例が再現できない組織では、学習が起きないため、再現も起きないのです。
経営判断として何が欠けていたのか
01
保存の粒度
成功をどの粒度で保存するのか
02
再現対象の特定
どの判断を再現対象にするのか
03
構造化の責任
それを誰が構造に落とすのか
欠けていたのは、成功後の意思決定設計です。成功は、放っておけば消えます。再現するためには、意図的に、構造として、設計し直す必要があります。
解決策
成功事例を再現可能にする唯一の方法
成功事例を再現する方法は、マニュアル化でも横展開でもありません。必要なのは、成功時に下された判断を特定し、それをルールや構造に落とし、ITで固定化するというプロセスです。
つまり、成功を意思決定装置として保存するという発想です。
1
判断の特定
成功時の判断を明確化
2
構造化
ルールや構造に落とす
3
固定化
ITで保存する
次に問うべきこと
問うべきは、「なぜ再現できなかったのか」ではありません。問うべきは、「どの成功を、どの判断として、再現したいのか」です。
どの成功を
再現対象の明確化
どの判断として
判断基準の特定
再現したいのか
目的の設定
次稿では、事業ITと経営ITが断絶する地点を取り上げ、成功が個別最適に閉じ込められていく構造を、さらに上位のレイヤーから見ていきます。