再現性を設計しなかった経営判断
事業が一度うまくいったあと、次も同じように成功するとは限りません。最初の事業は伸びたが次が続かない、同じモデルを横展開しようとして失敗する、優秀な人がいないと回らない——これらは市場環境や人材の問題として説明されがちですが、本質的な原因は経営が「再現性」を設計対象として引き取らなかったことにあります。
第1章
再現性は「後で考えるもの」だと判断された
成長初期の経営判断では、まず成功すること、まず市場を取ること、まず売上を立てることが優先されます。この段階で再現性は「余裕ができてから」「組織が固まってから」「二周目で考えればよい」と位置づけられます。
つまり、再現性は戦略ではなく、改善テーマとして扱われたのです。この判断が、後の組織に大きな影響を与えることになります。

優先順位の罠
短期的な成果を追求する中で、再現性という長期的な資産の構築が後回しにされてしまいます。
誤解
再現性は「自然に生まれる」と誤解された
経営者の期待
  • 成功体験が蓄積されれば
  • ノウハウが共有されれば
  • 組織が成熟すれば
再現性は自然に高まると考えられていました。
現実の姿
  • 設計されなければ生まれない
  • 意図的に固定化しなければ残らない
再現性は副産物ではなく、設計物なのです。
人に依存した成功は、再現できない
再現性が設計されなかった組織では、成功は「あの人が頑張ったから」「現場が柔軟に対応したから」「タイミングが良かったから」という形で記憶されます。これらはすべて事実ですが、次に何をすればよいかを示していません。
特定の人に依存
成功の鍵が個人のスキルに紐づく
文脈ごと再利用不可
状況が変わると応用できない
横展開できない
他の事業に転用できない
テクノロジー
ITは再現性を担保する装置だった
本来のITの役割
  • 判断基準を固定する
  • 手順を標準化する
  • 成功条件を構造に落とす
つまりITは、成功を人から切り離し、構造として保存する装置です。再現性を設計しなかった経営判断は、この役割をITから奪いました。
再現性を設計しないと、スケールできない
事業が拡大すると、「誰が次を回すのか」「どこまで任せてよいのか」「何を変えてはいけないのか」という問いが必ず現れます。再現性が設計されていない場合、これらに答えることができません。
判断が属人化する
意思決定が特定の人に集中し、組織が硬直化します。
組織拡張が怖くなる
新しい人材を受け入れることにリスクを感じるようになります。
事業成長にブレーキがかかる
スケールの壁に直面し、成長が停滞します。
経営判断
なぜ経営は再現性を引き取らなかったのか
短期成果が見えにくい
再現性への投資は、すぐには数字に表れません。四半期ごとの成果を求められる経営者にとって、優先順位を上げにくい項目です。
設計コストが高い
再現性を構造に落とすには、時間と人材、そして経営の意思決定が必要です。目の前の業務に追われる中で、このコストは重く感じられます。
成功している間は問題にならない
成長が続いている限り、再現性の欠如は顕在化しません。問題は、気づいたときには手遅れになりやすい点です。
これは合理的だが危険な判断でした。
再現性を欠いた組織の末路
再現性を設計しなかった組織では、次の事業が当たらない、同じ失敗を繰り返す、優秀な人ほど疲弊するという現象が起きます。
これは能力不足ではありません。構造が人に過剰な負荷をかけているのです。組織は個人の努力に依存し続け、持続可能性を失っていきます。
70%
疲弊する優秀層
45%
30%
次の事業成功率
核心
経営判断として、何が間違っていたのか
再現性を後回しにしたこと自体が、致命的な誤りだったわけではありません。問題は、いつ再現性を設計するのか、どこから構造に落とすのか、誰がその判断を引き取るのかを、経営が一度も明示しなかったことです。
1
タイミングの不在
いつ着手するか決めなかった
2
範囲の曖昧さ
どこから始めるか定義しなかった
3
責任の不明確さ
誰が引き取るか決めなかった
次に問うべきこと
ここで問うべきは「再現性は必要か」ではありません。問うべきは、何を再現したいのか、どの判断を構造に落とすのか、です。
何を再現したいのか
成功の本質的な要素を特定する
どの判断を構造に落とすのか
属人性を排除し、システム化する

次稿では、安定性だけを評価されたIT組織を取り上げ、再現性が設計されなかった結果、情シスがなぜ「守り」に閉じ込められたのかを検討します。