ITが経営会議に出てこない理由
多くの企業で、売上・人事・投資・組織再編といったテーマは経営会議で議論されます。一方で、ITは「重要だ」と言われながらも、経営会議の主要議題として扱われることは多くありません。
本稿では、なぜITが経営会議に出てこないのかを、会議運営や資料作成の巧拙ではなく、経営意思決定の構造として整理します。
経営の本質
経営会議は「判断する場」である
何に投資するか
限られた経営資源をどこに配分するかの判断
何を止めるか
撤退や中止の決断を下す場面
どのリスクを取るか
不確実性を伴う選択の決定
経営会議の本質的な役割は、情報共有ではありません。不可逆性を伴う判断を下す場です。この前提に立つと、ITが経営会議に出てこない理由は、単に「軽視されているから」ではないことが見えてきます。
ITは「判断材料」として整理されていなかった
経営会議に上がる議題の共通点
  • 目的が明確である
  • 選択肢が整理されている
  • 判断基準が言語化されている
ITの提示のされ方
  • 何を目的としているのか不明確
  • 成否の基準が曖昧
  • 判断しても責任の所在が不透明
その結果、ITは判断に適さないテーマとして、経営会議の外側に追い出されていきます。
誤解
「専門的すぎる」という誤解
ITが経営会議に出てこない理由として、「専門的すぎて議論できない」という説明がよく使われます。しかし実際には、専門性の高さそのものが問題なのではありません。

問題は、ITが経営判断の言語に翻訳されていないことです。
01
事業上、何を変えるのか
02
経営として、どのリスクを取るのか
03
取らない場合、何が失われるのか
これらが整理されないまま、技術要素だけが提示されるため、議題として成立しなくなります。
数字で語れないものは、議題にならない
経営会議では、最終的に何らかの数値判断が求められます。投資額、期待リターン、リスクの大きさといった指標が必要です。
効果が分解できない
ITの効果は複数の要素が絡み合い、単一の指標に落とし込めない
影響範囲が広すぎる
全社的な影響を及ぼすため、局所的な数値化が困難
成果が時間差で現れる
投資と効果の間に長期的なタイムラグが存在する
その結果、ITは「議論すると時間がかかる割に、結論が出ないテーマ」となり、経営会議から敬遠されていきます。
承認事項としてのみ扱われるIT
多くの企業で、ITは経営会議に「出てはいる」ケースもあります。しかしその多くは、事後的・形式的な扱いに留まっています。
すでに決まった方針の承認
予算消化の報告
トラブル発生後の説明
これは、ITが意思決定の対象ではなく、結果報告の対象として位置づけられていることを意味します。
本質的な問い
経営が引き取らなかった問い
本来、経営が引き取るべき問いは次のようなものです。しかしこれらの問いは、現場や専門家に委ねられ、経営会議では扱われませんでした。
1
このITは、どの経営目的に資するのか
事業戦略との明確な紐付けが必要
2
なぜ今やる必要があるのか
タイミングの妥当性を説明する
3
やらない場合、どの制約が残るのか
機会損失とリスクを明確化する
その結果、ITは「決める場」を持たないまま進行する領域になります。
結果として起きたこと
ITが経営会議に出てこない状態が続くと、様々な問題が発生します。これらは、ITの失敗ではありません。経営判断の場からITを外した結果です。
1
大規模投資が事後的に問題化する
事前の経営判断がないため、問題が顕在化してから対応を迫られる
2
全社最適より部門最適が優先される
経営視点での調整機能が働かず、部門ごとの判断が先行する
3
同じ失敗が繰り返される
経営レベルでの学習と改善のサイクルが機能しない
解決への道筋
次に必要なこと
ITを経営会議に戻すために必要なのは、新しい資料フォーマットではありません。まず必要なのは、根本的な位置づけの変更です。
ITを「判断すべき経営対象」として位置づけ直すこと
技術的な課題ではなく、経営判断が必要な戦略的テーマとして扱う
技術ではなく、意思決定としてITを語ること
技術仕様ではなく、経営判断の言語で議論する枠組みを構築する
次稿への展開
本稿では、ITが経営会議に出てこない構造的な理由を整理しました。ITは軽視されているのではなく、経営判断の枠組みに適合する形で提示されていなかったのです。
次稿では、「ITは専門家に任せるべき」という神話が、この構造をどのように正当化してきたのかを扱います。

経営とITの関係を再構築するためには、まず現状の構造を正確に理解することが不可欠です。そこから、真の変革への道筋が見えてきます。