全体最適を担えなかった理由
情シスに対して「部門最適ではなく、全体最適を見てほしい」という期待が語られます。しかし現実には、部門ごとにシステムが分断され、SaaSやツールが乱立し、誰も全体を把握していない状態が常態化しています。
第1章
全体最適には「全体を決める権限」が必要である
全体最適を担うには、全体を決める権限が必要です。全体最適とは、必然的に次のような判断を含みます。
  • ある部門の要望を却下する
  • 短期的な不便を受け入れさせる
  • 既存投資を捨てる決断をする
  • 会社としての優先順位を決める
これらはすべて、調整ではなく、意思決定であり、本来は経営の専権事項です。

重要なポイント
全体最適は「期待」だけでは実現しません。権限、責任、評価がセットで設計されて初めて成立します。
第2章
情シスには「責任」だけが渡された
日本企業において、情シスはしばしば全社ITの安定稼働、セキュリティ事故の防止、システム全体の整合性といった結果責任を期待されてきました。
期待される責任
  • 全社ITの安定稼働
  • セキュリティ事故の防止
  • システム全体の整合性
与えられない権限
  • 部門ITを止める権限
  • 投資を差し戻す権限
  • 優先順位を変更する権限
情シスは、全体最適の責任を負わされながら、全体を決める権限を持たないという、構造的に矛盾した立場に置かれていました。
第3章
部門最適を止められないのは、当然である
事業部門の合理的行動
事業部門は、当然ながら自部門の成果を最大化しようとします。
  • スピードを優先したい
  • すぐに使えるツールを入れたい
  • 自分たちで意思決定したい
これ自体は合理的であり、非難されるものではありません。

問題は、それを止める主体が、組織上存在しなかった点にあります。情シスは調整役にはなれても、「それは全社としてやらない」「こちらを優先する」と決める立場ではありませんでした。
結果として、部門最適は合理的に積み上がり、全体最適は誰も担わないまま残されました。
構造的問題
全体最適は「期待」だけで実現しない
しばしば「全体を見て動いてほしい」「俯瞰的な視点を持ってほしい」という言葉が使われます。しかし、期待や姿勢では、全体最適は実現しません。
権限
決定する力
責任
結果への説明
評価
成果の測定
全体最適とは、権限、責任、評価がセットで設計されて初めて成立します。情シスに対して権限は与えず、評価は安定・コストに限定し、それでいて全体最適を期待するという設計は、論理的に破綻しています。
情シスが直面する矛盾
期待される役割
全社ITの統合管理、セキュリティ確保、システム全体の最適化、部門間の調整
実際の権限
部門の意思決定に介入できない、予算配分を決められない、優先順位を強制できない
評価基準
システムの安定稼働、コスト削減、トラブル対応の速さ、事故の防止
この構造的矛盾が、情シスが全体最適を担えない根本的な理由です。
第4章
なぜ経営は、この役割を担わなかったのか
本来、全体最適を設計し、部門間の優先順位を決めるのは経営の役割です。しかし多くの企業では、ITを戦略設計の対象と見なさず、部門ごとの案件として扱い、調整を情シスに委ねました。
1
ITを戦略対象外に
経営がITを業務支援ツールとしてのみ認識
2
部門ごとの判断
各部門が独自にシステムを導入
3
調整を情シスへ
統合の責任だけが情シスに委譲
4
統合判断の空白
誰も全体を決められない状態に
その結果、経営が担うべき統合判断の空白が生まれました。情シスは、その空白を埋めることを期待されたが、権限も評価も与えられませんでした。
現状の構造的問題
経営の期待、情シスに与えられた権限、そして評価基準の間には大きなギャップが存在します。この三者の不一致が、全体最適を実現できない根本的な原因となっています。
期待と権限の乖離
全体最適を期待されながら、部門を統制する権限がない状態が続いています。
評価基準の不整合
戦略的判断ではなく、安定稼働とコスト削減で評価される矛盾があります。
解決への道筋
全体最適を実現するために必要なこと
全体最適を実現したいのであれば、経営自らが次の点を設計し直す必要があります。
01
意思決定者の明確化
誰が全体を決めるのかを明確に定義する
02
優先順位の基準設定
何を基準に優先順位を付けるのかを明文化する
03
評価制度の再設計
その判断をどう評価するのかを体系化する
04
権限の委譲
決定に必要な権限を適切に配分する
これらを行わない限り、情シスは合理的に「全体最適を担えない組織」であり続けます。
おわりに
「全体最適を担えなかった理由」は、情シスの視座や努力の問題ではありません。それは、全体を決める責任を経営が放棄し、その役割を情シスに期待だけした結果です。
全体最適は、組織設計の問題です。権限、責任、評価が一致して初めて実現可能になります。経営がこの構造を理解し、適切な設計を行うことで、初めて情シスは全体最適を担う組織へと変革できるのです。
組織設計
権限と責任の明確化
経営判断
ITを戦略対象として認識
継続的改善
評価と改善のサイクル