情シスが経営の武器にならない条件
近年、「情シスを経営の武器にせよ」「攻めの情シスへ」といった言葉が繰り返し語られています。しかし現実には、多くの企業で情シスは経営の意思決定に関与できず、事業変革の中核にもなれず、依然として"守り"の役割に留まっています。
この状況は、情シスの努力不足や人材の問題ではありません。本稿では、どのような条件下では、情シスは構造的に「経営の武器」になり得ないのかを、経営判断と組織設計の観点から整理します。
条件1
ITの目的が経営によって定義されていない
最も根本的な条件は、経営が、ITを何のために使うのかを定義していないことです。この状態では、情シスは何を最適化すべきか分からず、どこまで踏み込んでよいか判断できず、成果をどう説明すればよいかも定まりません。
ITがコストなのか、投資なのか、経営構造そのものなのかが曖昧なままでは、情シスが「武器」として振る舞う余地は存在しません。
最適化の対象が不明
何を優先すべきか判断できない状態
権限の範囲が曖昧
どこまで踏み込んでよいか分からない
成果の説明が困難
評価基準が定まらない
条件2
意思決定に関与せず、実行だけを担わされている
経営の武器とは、意思決定を左右する存在です。にもかかわらず多くの情シスは、方針決定後に呼ばれ、期限と予算だけを渡され、実装と運用を求められるという立場に置かれています。
1
経営が方針決定
情シスは不在
2
情シスに通達
期限と予算のみ
3
実装・運用
決められたことを実行
この条件下で情シスができるのは、決められたことを、事故なく実行することだけであり、経営の選択肢を広げることではありません。
条件3
投資判断と優先順位決定の権限を持たない
情シスが経営の武器になるためには、どこに投資するか、何をやらないか、どの順番で進めるかといった判断に関与する必要があります。
しかし現実には、予算枠は別で決まり、部門要望は既成事実として積み上がり、情シスは調整役に留まるという構造が多く見られます。
予算枠は別で決定
情シスの関与なく予算が確定
部門要望が積み上がる
既成事実として処理を求められる
調整役に留まる
全体最適の権限がない

権限なき全体最適は存在しない — この前提が満たされない限り、情シスが武器になることはありません。
条件4
評価指標が「安定」と「コスト」に限定されている
評価は行動を規定します。情シスの評価が障害を起こさないことと、コストを下げることに限定されている限り、情シスが合理的に選ぶ行動は決まっています。
1
変えない
現状維持が最優先
2
攻めない
リスクを避ける
3
新しいリスクを取らない
安全第一の姿勢
この評価設計のまま「経営に貢献せよ」と求めるのは、構造的に矛盾しています。行動を変えたいのであれば、まず評価基準を変える必要があります。
条件5
事業理解を前提としない役割設計のまま
経営の武器となるITは、必然的に事業構造、競争戦略、収益モデルへの理解を必要とします。
しかし情シスが事業計画を共有されず、意思決定プロセスから外され、結果だけを渡される立場にある限り、事業理解を前提とした行動は取れません。
事業計画の非共有
戦略的な情報にアクセスできない
意思決定から除外
重要な議論に参加できない
結果のみ通達
背景や文脈が分からない
これは意欲の問題ではなく、設計の問題です。
条件6
経営が「IT統合」という役割を放棄している
本来、部門間のITの優先順位、全社的な構造設計、捨てるITと残すITの判断は、経営が担うべき統合判断です。
優先順位の決定
部門間のIT投資の順序
全社構造設計
統合的なシステム設計
取捨選択の判断
何を残し何を捨てるか
この役割を担わず、「情シスが何とかしてくれるはずだ」と期待した時点で、情シスは責任は重いが権限はないという不成立な役割に置かれます。
構造的な問題の全体像
これまで見てきた6つの条件は、すべて相互に関連しています。一つの問題を解決しても、他の条件が残っていれば、情シスは依然として経営の武器にはなれません。
目的の不在
ITの役割が定義されていない
権限の欠如
意思決定に関与できない
評価の偏り
安定とコストのみ
情報の分断
事業理解の機会がない
これらは個別の問題ではなく、経営がITをどう位置づけるかという根本的な問いに対する答えの欠如から生じています。
根本原因:経営の役割放棄
「情シスが経営の武器にならない条件」は、ほぼすべて経営がITをどう定義し、どこまで担うかを決めなかったことに起因しています。
情シスを経営の武器にしたいのであれば、人を替える、組織名を変える、DXを掲げる前に、まず確認すべき問いがあります。
経営は、ITで何を決めたいのか
この問いに答えない限り、情シスは合理的に「武器にならない存在」であり続けます。表面的な改革ではなく、経営自身がITに対する姿勢を根本から見直す必要があるのです。
まとめ:不成立条件の整理
情シスが経営の武器になるためには、これらの条件を一つずつ解消していく必要があります。しかし、それは情シス単独でできることではありません。経営の明確な意思と、組織設計の変革が不可欠です。
1
ITの目的定義
経営がITの役割を明確に定義する
2
意思決定への参画
方針段階から情シスを関与させる
3
権限の付与
投資判断と優先順位決定の権限を与える
4
評価指標の見直し
安定とコスト以外の価値を評価する
5
事業情報の共有
戦略的な情報へのアクセスを保証する
6
統合責任の明確化
経営がIT統合の役割を担う
本稿は改革論ではなく、まず「不成立条件」を明確にする試みでした。これらの条件を認識することが、真の変革への第一歩となるでしょう。