経営が設計すべきITとは何か
なぜ情シスは守りに閉じ込められたのか。なぜITは経営の武器にならなかったのか。なぜ改革は失敗し続けたのか。本稿は、その反転点に位置づけられます。
第1章
経営が設計すべきITは「ツール」ではない
経営が設計すべきITとは、どのシステムを入れるか、どのSaaSを選ぶか、内製か外注かといった個別ツールの選択ではありません。それらはすべて、設計の結果として現れる手段に過ぎないのです。
経営が本来設計すべきだったのは、ITによって何を再現したいのかという問いです。この根源的な問いに答えることなく、ツール選定に走ることが、多くの失敗の原因となっています。

重要なポイント
ツール選択は手段であり、目的ではありません。経営が問うべきは「何を再現したいのか」です。
第2章
設計すべきは「意思決定構造」
ITの本質的な価値は、効率化ではありません。それは、判断を速くする、判断を揃える、判断を再現可能にすることにあります。
判断を速くする
必要な情報に即座にアクセスし、迅速な意思決定を実現します。
判断を揃える
組織全体で一貫した判断基準を共有し、ブレを防ぎます。
判断を再現可能にする
成功パターンを構造化し、属人化を排除します。
経営が設計すべきITとは、意思決定をどう行う会社なのかを、構造として固定する装置である。
意思決定の4つの要素
01
どの情報を見て
判断に必要なデータと情報源を明確に定義します。
02
誰が判断し
意思決定の権限と責任の所在を明確化します。
03
どこまでをルール化し
標準化すべき判断プロセスを特定します。
04
どこを裁量に残すのか
人間の判断が必要な領域を明確にします。
これらを決めずにITを導入すれば、ツールは増え、判断は属人化し、全体は見えなくなるという結果にしかなりません。構造なき導入は、混乱を生むだけです。
第3章
事業・組織・ITの同時設計
海外企業や成長企業が例外的に見える理由は、ここにあります。彼らは、事業モデル、組織構造、IT構成を分離せず、同時に設計しているのです。
日本企業の分断
  • 事業は事業部門
  • 組織は人事部門
  • ITは情シス部門
成長企業の統合
  • 事業・組織・ITを一体設計
  • 経営が全体を統括
  • 構造的な整合性
設計の本質
  • 業務と人の配置
  • 構造への埋め込み
  • 判断の停止点
事業・組織・ITは、切り分けて設計できない。経営が設計すべきITとは、全体設計である。
第4章
経営が担うべき「捨てる判断」
ITが複雑化し、全体最適が失われた最大の理由は、捨てる判断を誰も引き取らなかったことにあります。これらはすべて、経営にしかできない判断です。
既存システムの判断
レガシーシステムを残すか捨てるか。技術的負債と事業継続性のバランスを取る決断です。
最適化の範囲
部門最適を止めるか認めるか。全体最適と個別効率のトレードオフを判断します。
時間軸の選択
短期成果を取るか、将来負債を避けるか。投資対効果の時間軸を決定します。
情シスにこれを委ねた時点で、責任と権限は乖離し、全体最適は不成立になります。経営が設計すべきITとは、何をやらないかを決められる構造そのものです。
第5章
ITは経営思想の再現装置
最終的に、この問いに行き着きます。この会社は、どんな判断を良しとするのか。これらは経営思想であり、本来は言語化され、共有されるべきものです。
スピード重視
迅速な意思決定と実行を最優先する経営思想
再現性重視
成功パターンの標準化と横展開を重視する思想
安定性重視
リスク管理と継続性を第一に考える思想
ITによる経営思想の実装
ITは、経営思想をプロセスに落とし、ルールに変換し、データ構造に埋め込むための装置にすぎません。
つまり、経営が設計すべきITとは、経営思想を再現する構造なのです。技術選定の前に、まず自社の経営思想を明確にすることが不可欠です。
経営思想
プロセス化
ルール変換
構造埋め込み
根源的な問いに答える
「経営が設計すべきITとは何か」という問いに、最新技術、DX施策、組織論で答えようとする限り、議論は噛み合いません。答えるべきなのは、もっと根源的な問いです。
自分たちは、どんな判断をする会社でありたいのか
経営がこの問いに答え、その内容を構造として設計する。それができて初めて、情シスの役割、IT投資の意味、ツール選定の基準は自然に決まります。
1
経営思想の明確化
判断基準の言語化
2
構造設計
思想の実装方針
3
役割の決定
情シスの位置づけ
4
投資判断
ツール選定基準
ITを設計するとは、経営そのものを設計すること
ITを設計するとは、経営そのものを設計することに他なりません。技術の選択ではなく、会社の在り方を定義する行為です。
経営思想の再現
どんな判断をする会社かを構造化する
全体設計の実現
事業・組織・ITを統合して設計する
捨てる判断
何をやらないかを明確に決める
経営が設計責任を引き取り、ITを通じて自社の判断構造を明確にする。それこそが、真の意味でのIT戦略であり、経営戦略そのものなのです。