目的関数を定義し直すという経営責任
ITがうまく機能しなかった原因は、技術の選択や現場の努力不足ではありませんでした。問題の核心は、経営が「何を最適化するのか」を定義しなかったことにあります。
目的関数を定義するとはどういうことか
目的関数を定義するとは、何を成功とみなすのか、何を犠牲にしてよいのか、どの判断を優先するのかを明確にすることです。これは単なる目標設定ではありません。組織全体がどの軸で判断するかを固定する行為です。
成長速度
市場拡大を最優先し、スピードを重視した展開を選択する
再現性
プロセスの標準化と品質の一貫性を確保する
安定性
リスクを最小化し、持続可能な運営を維持する
なぜ目的関数は現場では定義できないのか
現場の判断範囲
現場は、目の前の成果、与えられたKPI、現実的な制約の中で判断します。
  • 日々の業務遂行
  • 短期的な目標達成
  • 与えられた枠内での最適化
経営の判断領域
目的関数とは、組織全体に影響するトレードオフの選択であり、経営だけが引き取れる判断です。
  • 何を捨てるか
  • どこまで割り切るか
  • 将来のために今を犠牲にするか
なぜIT部門に任せてはいけないのか
IT部門は、技術的に可能な選択肢を示し、リスクを説明し、実装方法を検討する役割を担います。しかし、どの事業に賭けるのか、どの速度で成長するのか、どのリスクを受け入れるのかを決める権限は持っていません。
1
IT部門の役割
技術的選択肢の提示とリスク説明
2
経営の役割
事業判断と戦略的意思決定
3
統合された判断
技術と経営の整合性確保

重要: ITの目的関数をIT部門に委ねるということは、経営判断を組織の外に追い出すことに他なりません。
定義されなかった結果として起きたこと
目的関数が定義されないままITが導入されると、部門ごとに最適化軸が異なり、投資判断が場当たり的になり、成功も失敗も検証できないという状態が生まれます。
部門間の不整合
各部門が異なる最適化軸で動き、組織全体の方向性が定まらない
場当たり的投資
明確な基準がないため、投資判断が一貫性を欠く
検証不可能性
成功の定義がないため、結果の評価ができない
これは、誰かの能力不足ではなく、定義を行わなかった経営判断の帰結です。
目的関数は一度決めれば終わりではない
重要なのは、目的関数は固定不変ではないという点です。事業フェーズ、組織規模、市場環境によって、最適化すべき対象は変わります。
1
創業期
成長速度を最優先し、市場での存在感を確立
2
拡大期
再現性を重視し、スケーラブルな体制を構築
3
成熟期
安定性を主軸に、持続可能な運営を実現
経営の責任とは、いつ、どの目的関数に切り替えるのかを、明示的に更新し続けることです。
目的関数を言語化するという行為
目的関数を定義するとは、数式を書くことではありません。なぜ今は速度を優先するのか、どこから再現性を重視するのか、安定性を主軸に戻す条件は何かを、言葉として組織に共有することです。
この言語化がない限り、ITは便利な道具、コスト、管理対象に引き戻されていきます。
01
現状の認識
今、何を最適化しているのかを明確にする
02
方針の決定
次のフェーズで何を優先するかを選択する
03
組織への共有
判断基準を言葉で全社に伝える
経営責任とは「決め続けること」
ここで言う経営責任とは、失敗したときに責任を取ることではありません。何を最適化するのかを決め、その判断を組織に示し、環境変化に応じて更新することです。
目的関数の定義
何を最適化するかを明確に決定
組織への提示
判断基準を全社に共有
継続的な更新
環境変化に応じて見直し
効果の検証
結果を評価し次に活かす
ITの目的関数を定義し直すことは、その中核に位置する行為です。
次に進むための前提
ITを再び経営の武器にするために必要なのは、新しいIT戦略でも、最新のツールでもありません。
まず必要なのは、経営が目的関数を引き取るという覚悟です。
新しい戦略
必要なのは戦略ではなく、明確な判断基準
最新ツール
ツールの前に、何を実現するかの定義が先
経営の覚悟
目的関数を引き取り、責任を持つ決意
事業レイヤーでの暴走へ
この覚悟がなかった結果、事業推進の現場でITがどのように暴走していったのか。次章では、事業レイヤーから具体的に見ていきます。
1
経営の不在
目的関数が定義されない状態
2
現場の混乱
判断基準なき意思決定の連続
3
ITの暴走
方向性を失った技術投資