経営がITから逃げてきた代償
日本企業のIT問題は、情シスの弱さ、IT人材不足、DXの遅れとして語られてきました。しかしこれらはすべて「結果」であって「原因」ではありません。
本稿では、経営がITから逃げてきたことによって何が失われ、何が積み上がってしまったのかを構造として整理します。これは誰かを断罪するためではなく、なぜ今ここまで問題が大きくなったのかを理解するためのものです。
第1章
「専門領域」という言葉が生んだ空白
経営がITから距離を置く際、最も多く使われてきた言葉があります。「専門的だから」「難しいから」「任せた方が合理的だから」。一見すると合理的な判断に見えますが、この言葉は重要な問いを覆い隠してきました。
では、何を誰が決めるのか
専門性が高いことと、意思決定の責任を委ねることは同義ではありません。この切り分けを行わなかったことが、最初の空白を生んだのです。
第2章
定義されなかった「ITの目的」
経営がITから距離を置いた結果、最初に失われたものは「ITは何のために存在するのか」という定義です。ITはコストなのか、投資なのか、経営構造そのものなのか。この問いが経営の言葉として語られなかったため、組織全体に深刻な影響が生まれました。
情シスの閉塞
守りの業務に閉じ込められ、戦略的な役割を失いました
事業ITの暴走
統制なき投資が各部門で独立して進行しました
IT戦略の形骸化
実行力を持たない計画だけが積み上がりました

目的なきITは、必然的に「管理対象」に転落します。
第3章
判断の分断と属人化
経営がITを主語にした判断を行わなかった結果、事業判断、IT判断、組織判断は分断されました。その隙間を埋めたのは、現場の経験、個人の裁量、その場しのぎの判断です。
短期的には回りますが、ここで固定化されたのは「再現できない経営」でした。属人的な判断に依存する構造は、組織の成長を阻害し、持続可能性を失わせます。
1
経営判断の欠如
ITに関する明確な方針が示されない
2
現場の裁量依存
個人の経験と判断で穴埋めが行われる
3
属人化の固定
再現性のない経営構造が定着する
第4章
統合されないまま積み上がった負債
ITは本来、判断を揃え、構造を軽くし、組織をスケールさせるための装置でした。しかし経営が統合設計を行わなかった結果、部門ごとのIT、目的の異なるデータ、誰も全体を見ない構造が積み上がっていきました。
これは単なる技術的負債ではありません。経営判断の負債なのです。
部門ごとのIT
統合されない個別最適化
目的の異なるデータ
連携できない情報資産
全体を見ない構造
誰も責任を持たない複雑性
第5章
改革が失敗し続ける理由
IT改革やDXが繰り返し失敗する理由も、ここにあります。人を替えても変わらない、組織を作っても回らない、ツールを入れても使われない。それは、経営が引き取るべき判断を引き取っていないままだからです。
現場の疲弊
終わらない改革プロジェクト
責任の押し付け
失敗の原因探しが始まる
構造の温存
根本原因は変わらない
逃げたまま改革を進めれば、この循環は止まりません。構造的な問題に向き合わない限り、同じ失敗が繰り返されるのです。
第6章
最大の代償は「選択肢の喪失」
経営がITから逃げてきた最大の代償は、選べなくなったことです。何を内製すべきか、何を外注すべきか、何を捨て、何を残すべきか。判断基準が構造として存在しないため、戦略的な意思決定ができなくなりました。
流行に振り回される
トレンドを追うだけの意思決定が続きます
事例を真似する
他社の成功例をそのまま導入しようとします
後追いの判断
市場の変化に対して常に遅れを取ります
これは競争力の問題以前に、経営としての自由度を失った状態です。自ら選択する力を取り戻さない限り、真の競争優位は築けません。
代償はすでに現れている
「経営がITから逃げてきた代償」は、遅れ、負債、混乱として、すでに企業の中に現れています。しかし、重要なのはここからです。
3つ
主要な代償
遅れ、負債、混乱が組織を蝕んでいます
1つ
根本原因
経営が引き取らなかった判断にあります
回収の時期
この代償は今からでも回収できます
この代償は、今からでも回収できる
なぜなら、原因は一貫して「経営が引き取らなかった判断」にあるからです。
回収への道筋
ITから逃げることをやめ、何を再現したいのか、どの判断を構造に落とすのかを決め直す。それができた瞬間から、組織は変わり始めます。
ITから逃げない
経営がITを自分の言葉で語り始める
目的を定義する
何を再現したいのかを明確にする
判断を構造化する
意思決定を組織の仕組みに落とし込む
組織が変わる
情シス、IT投資、経営の全てが変わる
情シスの役割
守りから攻めへ、戦略的パートナーに変わります
IT投資の意味
コストから価値創造の手段に変わります
経営の自由度
再び選べる経営を取り戻します
回収できるのは経営だけ
経営がITから逃げてきた代償は大きいです。しかし、それを回収できるのも、経営だけです。
問題の原因が経営の判断にあるということは、解決の鍵も経営が握っているということです。ITは専門領域ではなく、経営そのものです。この認識から、すべてが始まります。
経営の決断
ITから逃げることをやめる
方向性の明確化
何を実現したいかを定義する
構造の再設計
判断を組織に組み込む
競争力の回復
選べる経営を取り戻す

代償は大きいですが、回収への道は開かれています。経営がITを引き取る決断をした瞬間から、組織は変わり始めるのです。