「IT戦略」という言葉の空虚さ
多くの企業で、「IT戦略」という言葉は当たり前のように使われています。IT戦略を策定し、経営戦略と連動させ、アップデートする。しかし、ITが経営判断の主語にならなかった企業において、この言葉はしばしば実体を伴っていません。
戦略とは、本来「選択と放棄」である
戦略の本質
戦略とは、何をやるかを決めることと、何をやらないかを決めることの両方を含みます。限られた資源の中で、どこに賭けるのか、どこを切り捨てるのかを決める行為が戦略です。
この定義に立つと、「IT戦略」という言葉には最初から一つの疑問が生じます。

重要な問いかけ
誰が、何を捨てる判断をしたのか
この問いに答えられない戦略は、戦略ではありません。
「IT戦略」は、判断主体を曖昧にする
1
IT部門が策定
IT部門が中心となって戦略を作成しますが、経営判断を下す権限はありません。
2
経営が承認
経営は承認しますが、ITの中身には踏み込みません。
3
現場が従う
現場は指示に従いますが、戦略の意図を理解していません。
この構造では、IT部門は経営判断を下せず、経営はITの中身に踏み込まないという前提が温存されます。結果として、戦略であるはずの文書に、誰の判断かが書かれていないという状態が生まれます。
経営戦略とIT戦略が並列に置かれた瞬間
経営戦略
ビジネスの方向性を示すが、ITの具体性を欠く
IT戦略
技術の方向性を示すが、経営判断を含まない
戦略が二つある時点で、どちらも本当の戦略ではありません
「IT戦略」という言葉が使われる背景には、経営戦略の中でITを語れなかった、ITを前提に事業を設計していなかったという事実があります。その結果、経営戦略とIT戦略という二つの戦略が並列に存在する構図が生まれました。
「整合させる」という言葉が示す空虚さ
よく使われる表現
経営戦略と整合させる
二つの戦略を後から合わせようとする試み
ビジネスとITをアラインさせる
本来一体であるべきものを無理やり結びつける行為
しかしこの表現は、重要な事実を隠しています。それは、本来一体であるべきものが、すでに分断されているという事実です。

整合が必要な時点で、戦略はすでに失敗しています。
IT戦略は「後追い文書」になりやすい
01
既存の取り組みを整理
すでに始まっているプロジェクトをリストアップする
02
投資を正当化
過去の支出に理由を後付けする
03
将来像を曖昧に描く
具体的な判断を避けた抽象的なビジョンを示す
これは戦略ではなく、説明資料です。なぜなら、何を止めるか、どの判断を変えるかが書かれていないからです。
なぜ「IT戦略」という言葉が生き残ったのか
経営の立場
関与しているように見せられる
IT部門の立場
責任を持っているように見せられる
組織全体の利点
誰も最終責任を負わなくて済む
この言葉は、判断不在の状態を覆い隠すための便利なラベルとして機能してきました。
IT戦略が機能する唯一の条件
経営自身の明確な意思
IT戦略という言葉が意味を持つとすれば、条件は一つしかありません。それは、経営自身が、ITを通じて変えたい意思決定を明示していることです。
この条件が満たされない場合
  • 計画に過ぎない
  • 方針に留まる
  • スローガンで終わる
問題は言葉ではなく、引き取らなかった判断
誤解を解く
重要なのは、「IT戦略」という言葉を使うこと自体が悪いわけではないという点です。
本当の問題
  • 戦略という言葉を使いながら
  • 戦略に必要な判断を
  • 誰も引き取らなかった
ことにあります。
次に進むための視点
ここで必要なのは、IT戦略を磨き直すことではありません。必要なのは、ITを主語にした戦略をやめること、そして経営判断を主語に戻すことです。
ITを主語にした戦略をやめる
技術起点の思考から脱却する
経営判断を主語に戻す
ビジネス価値を中心に据える
目的関数を定義し直す
戦略が成立する前提条件を明らかにする
次稿では、目的関数を定義し直すという経営責任を扱い、戦略という言葉が成立するための前提条件を明らかにしていきます。