海外IT部門との決定的違い
日本企業の情シスと海外企業のIT部門を比較する際、「海外のIT部門は経営に近い」「ITが戦略をリードしている」といった説明がよくなされます。しかし、この差を「人材の質」や「ITリテラシー」の問題として説明してしまうと、本質を見誤ります。
本稿では、海外IT部門との決定的な違いを、能力論や文化論ではなく、経営がITに何を委ね、何を委ねなかったのかという構造の差として整理します。
決定的な違いは「ITが担う主語」にある
日本の情シスが扱う主語
「ITそのもの」を主語にした課題
  • システムの安定稼働
  • 運用ルール
  • コストと契約
  • セキュリティと統制
海外IT部門が扱う主語
「経営・事業」を主語にした問い
  • 事業をどう伸ばすか
  • 意思決定をどう速くするか
  • 再現性をどう作るか
日本の情シス
ITを管理する
海外IT部門
ITで経営を設計する
この主語の違いが、その後のすべてを分けています。
海外ではITは「事業設計の一部」として始まった
多くの海外企業、とくにSaaS企業やプラットフォーム企業では、事業モデル、業務プロセス、ITシステムが分離されず、同時に設計されます。
01
どこを自動化するか
事業立ち上げ段階から自動化の範囲を決定
02
どこを人に任せるか
人的リソースの最適配置を設計
03
判断をどこまでコード化するか
意思決定プロセスのシステム化を検討
この前提では、ITは事業を成立させる構造そのものであり、後工程の支援機能ではありません。
日本ではITは「事業の後処理」として設計された
1
事業計画
まず事業計画が先に決まる
2
業務フロー
次に業務フローが固まる
3
IT効率化
最後にITで効率化する
この構造では、ITに求められる最優先事項は常に「業務を止めないこと」「既存ルールを壊さないこと」となります。

結果として情シスは、事業を変える存在ではなく、事業を守る存在として役割を与えられました。
海外IT部門は「意思決定装置」を担っている
海外企業のIT部門は、単なる開発・運用組織ではありません。IT部門そのものが、経営判断の一部を構成しています。
データを基に判断基準を作る
定量的な意思決定フレームワークの構築
人の判断を減らす
属人性を排除し、システム化された判断プロセスを実現
意思決定を再現可能にする
スケーラブルな判断メカニズムの確立
この前提では、ITが経営会議に出る、IT投資が事業投資として語られる、成果が売上や成長と結びつくことは自然な帰結です。
日本の情シスは「判断を委ねられなかった」
日本企業では、IT部門に対して次のような判断は、ほとんど委ねられてきませんでした。
  • 優先順位を決める
  • 事業構造を変える
  • 何をやらないかを決める
ITは「専門的で難しい」「経営が直接扱うものではない」と見なされ、「うまく回しておいてほしい領域」として切り出されました。
判断材料は作る
データや分析レポートの提供
判断はしない
最終決定は経営層が行う
その結果、情シスはこの立場に固定化されました。
差を生んだのは「経営の委任範囲」である
委任範囲の差
海外企業
事業設計と意思決定の一部を委ねた
  • 戦略的な判断権限
  • 事業構造の設計権
  • 投資優先順位の決定
日本企業
運用と管理のみを委ねた
  • システムの安定稼働
  • 日常的な運用管理
  • 技術的な問題解決
委任範囲が決定づけたもの
経営がITに何を委ねたかの違いが、すべてを決定づけました。
IT部門の発言力
経営会議での存在感と影響力の差
評価指標
事業成果 vs システム稼働率
人材像
ビジネスリーダー vs 技術専門家
経営との距離
戦略パートナー vs サポート部門
模倣では埋まらない本質的な差
「海外IT部門との決定的違い」は、文化や国民性の問題ではありません。それは、ITを経営判断の中に組み込む覚悟があったかどうかという、経営側の選択の差です。
海外事例を模倣する
表面的な施策の導入では本質は変わらない
組織名を変える
名称変更だけでは役割は変わらない
CIOを置く
肩書きだけでは権限は生まれない
この差を理解しないまま施策を行っても、本質的な違いは埋まりません。
必要なのは経営の再定義
ITを運用の対象ではなく、意思決定の一部として扱うという経営の再定義が必要です。
1
現状認識
委任範囲の差を理解する
2
覚悟の決定
ITに判断を委ねる覚悟を持つ
3
構造の変革
経営判断の一部としてITを組み込む
海外IT部門との差を埋めるには、経営がITをどう位置づけるかという根本的な問いに向き合う必要があります。それは組織改革ではなく、経営哲学の転換なのです。