ITを主語にしない意思決定
ITに関する意思決定がうまくいかない企業では、共通した問いの立て方が見られます。「このITを入れるべきか」「どのシステムが正しいか」といった問いこそが、意思決定を歪めてきた原因です。
ITを主語にした瞬間、目的は後退する
「このITを導入すべきか」という問いは、ITが問題を解決する前提となり、導入すること自体が目的になりやすい傾向があります。この問いの立て方では、ITが目的化し、事業や判断が手段に転落してしまいます。
よくある失敗パターン
  • なぜそれを入れるのか説明できない
  • 入れた後の評価軸が存在しない
  • 使われないITが増える
経営判断の主語は、常に「事業」である
本来、経営が問うべき主語は一貫しています。それは「この事業で、何を決めたいのか」という問いです。
顧客の集中
どの顧客に集中するのか
判断の速度
どの判断を速くしたいのか
判断の統一
どの判断を揃えたいのか
これらの問いに答えた後に、その判断を支える手段として、ITがあるという順序でなければなりません。
ITは「選択肢」ではなく「結果」として現れる
1
事業目的
何を達成したいのか
2
判断構造
どう判断するのか
3
IT
何で支えるのか
正しい意思決定の順序では、事業目的、判断構造、ITがこの順で現れます。この構造では、ITは選択肢の一つではなく、事業判断の必然的な帰結になります。

そのため、「どのITが正しいか」という問い自体が成立しなくなります。
ITを主語にしない問いの立て方
ITを主語にしない意思決定では、問いは次のように変わります。
システム導入について
このシステムを入れるべきか
この判断を、どの速度と精度で行いたいのか
開発体制について
内製すべきか外注すべきか
この判断を、誰が再現可能に行うべきか
データ統合について
データを統合すべきか
どの判断のために、同じ数字を見る必要があるのか
問いが変わると、答えも自然に変わります。
ITを主語にすると、責任主体が曖昧になる
ITを主語にした議論の問題点
ITを主語にした議論では、責任の所在がぼやけてしまいます。
  • ITの選定ミス
  • ベンダーの問題
  • 現場が使わない
事業を主語にした場合
事業を主語にした問いでは、責任主体は常に経営に戻ります。
  • どの判断を構造化するか
  • どこまでをITに委ねるか
これは、委譲できない経営判断です。
ITを主語にしないことで得られるもの
この思考転換によって、経営は次のものを取り戻すことができます。
意思決定の一貫性
事業目的に基づいた一貫した判断が可能になります
投資判断の説明可能性
なぜその投資をするのか明確に説明できます
失敗からの学習
失敗の原因を特定し、次に活かせます
ITは経営判断を支える構造の一部として、正しい位置に戻ります。
正しい意思決定の構造
1
2
3
1
事業目的
2
判断設計
3
IT選択
事業を主語にし、判断を先に設計し、ITをその結果として選ぶ。この順序を守る限り、ITは暴走せず、情シスは孤立せず、経営は再び選べるようになります。
ITを正しく「従属」させる
ITを主語にしない意思決定とは、ITを軽視することでも、技術から逃げることでもありません。それは、ITを正しく「従属」させることです。
3つの原則
01
事業を主語にする
常に事業目的から始める
02
判断を先に設計する
どう判断するかを明確にする
03
ITを結果として選ぶ
判断を支える手段として選択する
次のステップへ
ITを主語にしない意思決定の原則を理解したら、次は具体的な投資判断のフレームワークへ進みます。
第VI章
IT投資をどう判断するか
より具体的な意思決定フレームを学びます
この順序を守る限り、ITは暴走せず、情シスは孤立せず、経営は再び選べるようになります。