事業ITと経営ITが断絶する地点
多くの企業で、現場では大量のデータとツールが使われ、レポートも定期的に上がっているにもかかわらず、経営は「全体が見えない」と感じています。この違和感の正体が、事業ITと経営ITの断絶です。
第1章
本来、事業ITと経営ITは同じものだった
本来、事業ITと経営ITは別の存在ではありません。事業で生まれたデータを経営が判断に使い、その判断が再び事業に返る。この循環が成立して初めて、ITは経営の武器になります。
しかし多くの企業では、この循環が途中で断ち切られています。

There was an error generating this image

1
事業でデータが生まれる
現場の活動から日々データが蓄積されます
2
経営が判断に使う
データを基に戦略的な意思決定を行います
3
判断が事業に返る
経営判断が現場の行動に反映されます
重要な洞察
断絶は「データ」ではなく「意味」で起きる
事業ITと経営ITの断絶は、データが届いていないことやシステムが連携していないことが原因だと思われがちです。しかし実際には、データは存在し、連携もされています。

断絶が起きているのは、データの意味が経営判断に接続されていない地点です。
この認識の転換が、問題解決の第一歩となります。データの量や技術的な連携ではなく、意味の接続こそが本質的な課題なのです。
現場と経営で異なる数字の用途
現場の数字
行動のための判断に最適化
  • 日次・週次のKPI
  • チーム単位の目標
  • 即時性の高い指標
今どう動くか、どこを改善するか、何を優先するかを決めるために使われます。
経営の数字
選択のための判断に必要
  • 意味が揃った指標
  • 時間軸を超えた比較
  • トレードオフが見える情報
どの事業に賭けるか、どこに投資を集中するか、何をやめるかを決めるために使われます。
注意点
同じ数字でも「用途」が違う
ここで重要なのは、事業ITの数字が間違っているわけでも、経営が数字を理解できていないわけでもない点です。
同じ数字でも、行動を決めるための数字と戦略を選ぶための数字では、必要な粒度・定義・文脈が異なります。
この変換が行われないまま、現場の数字をそのまま経営に上げると、断絶が生まれます。
粒度の違い
現場は詳細な日次データ、経営は集約された傾向データを必要とします
定義の違い
同じ「売上」でも、現場と経営では集計範囲や期間が異なります
文脈の違い
現場は実行文脈、経営は戦略文脈で数字を解釈します
第2章
レポートラインが断絶を固定化する
多くの企業では、事業ITは事業部の中にあり、経営ITは管理部門や情シスにあるという構造を取っています。この構造では、事業ITは現場最適を追い、経営ITは報告・統制を担うという役割分担が固定化されます。
1
事業IT
事業部の中に配置され、現場最適を追求します
2
断絶の発生
誰も「事業と経営をつなぐ設計」を引き取らない状態が生まれます
3
経営IT
管理部門や情シスに配置され、報告・統制を担います

結果として、誰も「事業と経営をつなぐ設計」を引き取らない状態が生まれます。
BizOpsが断絶を一時的に埋める
この断絶を感じた企業では、BizOpsやデータ分析チームが、その間を人力でつなぎます。しかし、判断基準が構造化されず、解釈が人に残り、ITに固定されない限り、断絶は解消されません。
BizOpsは、断絶の解決策ではなく、緩衝材に過ぎません。
1
判断基準が構造化されない
属人的な判断に依存し続けます
2
解釈が人に残る
ノウハウが組織に蓄積されません
3
ITに固定されない
システムとして再現可能になりません
核心
断絶の正体は「意思決定設計の不在」
事業ITと経営ITが断絶する地点とは、行動の判断から選択の判断へ切り替わる地点です。この切り替えを、どの数字で、どの定義で、誰が行うのかを設計していなかったことが、断絶の正体です。
行動の判断
現場での日々の意思決定。即時性と具体性が求められます。
切り替わる地点
ここで断絶が発生します。どの数字で、どの定義で、誰が行うのかが不明確です。
選択の判断
経営での戦略的意思決定。全体最適と長期視点が求められます。
経営判断として何が欠けていたのか
欠けていたのは、事業と経営をつなぐITを誰が主語で設計するのかという問いでした。この問いを放置した結果、事業ITは現場に閉じ、経営ITは報告装置になり、両者は交わらない構造が完成しました。
事業ITは現場に閉じる
現場最適化に特化し、経営視点を持たなくなります
経営ITは報告装置になる
意思決定支援ではなく、単なる報告ツールに留まります
両者は交わらない
構造的な分断が固定化され、循環が失われます
問うべきは、経営は、どの判断を、ITで再現したいのかです。
次のステップ
次に問うべきこと
ここで問うべきは、どうやってレポートを改善するかではありません。
問うべきは、経営は、どの判断を、ITで再現したいのかです。
速度を出すIT
現場の行動を加速させるためのシステム設計
残すIT
経営判断を再現可能にするためのシステム設計
次稿では、速度を出すITと残すITの違いを取り上げ、事業ITと経営ITを再接続するための具体的な分離・設計の考え方を検討します。