ITは経営資源か経費か
ITについて議論するとき、多くの企業では無意識のうちに「ITは経営資源なのか、それとも経費なのか」という二択が置かれています。この問いは一見シンプルですが、実はこれまでのIT分断を生み出してきた最も根本的な誤解を含んでいます。
基礎概念
経営資源とは何か
一般に経営資源とは、ヒト、モノ、カネ、情報といった、競争優位を生み出すために配分・設計・再構成される対象を指します。
経営資源の特徴
  • どう使うかで価値が変わる
  • 組み合わせで差が生まれる
  • 時間とともに構造化される
経費と経営資源の対比
経費の性質
発生を抑制すべきもの。効率化・削減の対象であり、原則として差別化を生まない支出です。最小化されることが前提の存在です。
経営資源の性質
配分・設計・再構成される対象。どう使うかで価値が変わり、組み合わせで差が生まれる、戦略的な投資対象です。
従来の認識
ITはなぜ「経費」として扱われてきたのか
多くの企業でITが経費として扱われてきた理由は、売上に直接結びつかない、成果が見えにくい、失敗するとリスクが大きいといった性質にあります。
コストセンター
利益を生まない管理部門として位置づけられる
守りの投資
攻めではなく、現状維持のための支出と見なされる
管理対象
削減・効率化の対象として扱われる
しかしITは、典型的な経営資源でもない
一方で、ITを単純に「経営資源だ」と言い切ることも、正確ではありません。なぜならITは、単体では価値を生まない、置いただけでは機能しない、設計思想なしには意味を持たないからです。
ITは、ヒトやモノのようにそれ自体が価値を持つ資源ではありません。
重要な視点
ITの正体は「経営資源を再編成する装置」
ここで視点を変える必要があります。ITは、ヒトの判断を構造に落とし、モノやデータの流れを定義し、カネの使われ方を固定化する経営資源をどう使うかを決める装置です。
ヒトの判断
判断を構造に落とす
モノとデータ
流れを定義する
カネの使い方
使われ方を固定化する
つまりITは、経営資源そのものでも単なる経費でもなく、経営資源の配分と再現性を規定する基盤でした。
この定義がなかったことの帰結
ITを経営資源だと言い切れず、かといって経費として割り切れず、中途半端に扱ってきた結果、深刻な問題が生まれました。
1
投資判断が曖昧になる
ITへの投資基準が明確にならず、意思決定が遅れる
2
ROIが説明できなくなる
投資対効果の測定方法が定まらず、評価が困難に
3
責任主体が消える
誰が責任を持つのか不明確になり、組織が機能不全に

これは、ITの問題ではなく、定義を避けた経営判断の問題です。
新しい問い
経営資源か経費か、ではなく
従来の問い
ITは経営資源か、それとも経費か

本当に問うべきこと
  • ITによって、どの経営資源の使い方を固定するのか
  • どの判断を再現可能にしたいのか
この問いに答えられたとき、IT投資は経費として削減される対象でもなく、抽象的な戦略資源でもなく、判断装置への投資として位置づけられます。
次に進むための視点
01
ITを通じて
どのような経営判断を
02
どの時間軸で
固定したいのかを
03
経営が引き取る
明確な意思決定として
ITをどう分類するかよりも重要なのは、ITを通じて、どの経営判断を、どの時間軸で固定したいのかを、経営が引き取ることです。
まとめと次のステップ
本稿では、ITを「経営資源か経費か」という二項対立で捉えること自体が、経営判断を誤らせてきた根本的な誤解であることを整理しました。
ITの本質
経営資源の配分と再現性を規定する基盤
新しい視点
判断装置への投資として位置づける
次のステップ
意思決定装置としてのIT活用へ
次稿では、ITを意思決定装置として扱う視点を取り上げ、ここまでの議論を、より具体的な思考フレームに落としていきます。